拍手ログ。
fiction=1:想像によって作り上げられた事柄。虚構。
2:作者の想像力によって作り出される物語。小説。作り話。
ちっちゃい頃から負けず嫌いやった。当たり前。男やもん。
オカンが行け言うた、オーディション。
ジャニーズ事務所。
正直ジャニーズて、って、何か女みたいな顔したやつばっかやんって、
ちゃんとつくもんついとんかいって、
自分の顔や身長棚に上げて見下しとって。
そんでもオーディション、負けんの嫌やし、そりゃ合格目指す。
って「合格」ってなんのこっちゃいって、基準は何やねんって腑に落ちんかったけど。
取り敢えず、見よう見真似。
呼ばれる自分のTシャツに付いたゼッケンの番号。
楽勝。何が楽なんか分からんけど。
部活みたいな、お金の貰えるサークルみたいな感覚で、仕事。
歌に自信、よう分からんけど、「上手い」って、「いい声だね」って、
どこのおっさんか知らんけど、多分事務所の偉い人?どうでもえぇわ。
歌わせてくれんねんてって、バラエティとかでちょこちょこ名前売って、
「ジャニーズJr.」ってのが一つのブランドとして成り立っとった時代のど真ん中、
音楽番組、当たり前みたいにセンターでマイク持って。
タッキーと並んで。みんなが知ってるタッキーと並んで。
んでも。
関西。大阪。違和感。差別。劣等感。僻み。嫉妬。
だんだん見えなくなっていく展望、将来。
ピリピリと、体中に棘まとって、誰も信じひんって、ポーズ、本心。
ヒナ。
ヒナ。
ヒナばっか頼って、本音ぶつけてぶつけて貰ってるって思い込んで。
ヨコ。
何でか、ヨコが苦手やった。
自分と似てる。自分見てるみたい。気持ち悪い。
でも、上手く立ち回るヨコ、そこは俺と違う。
媚売ってるヨコ見るんも気持ち悪かった。
今んなったら、俺らん全員の分、媚売っててんな。
ほんでもあん時、そんなん考えもせんし。
ヨコがヒナを呼ぼうとした、それより先に俺がヒナを呼んだった。
子供の独占欲。
ヒナを取られたなかってんな。
「取る取らん」の問題やないのに。
「ヒ」って開きかけた口閉じながら、ヨコはいっつも何も言わんと向きを変えて。
今でもそん時のくせなんか、ヒナを呼ぼうとしても、
隣に俺おったら、俺を一瞥した後、ちょっと困ったみたいな顔して、
でも何も言わんとどっか行く。
はよ大人になりたかった。
俺みたいな子供を否定するつまらん大人やなくって、
この世の闇とか暗さとか、そんなん全部認めて俺みたいなんも認めて、
そんな、息苦しく毎日生きてる子供を認めてやれる、
そんな大人にはよなりたかった。
あの頃。
俺らがどんどん落ちてったあの頃。
俺はヒナを拠り所にして、八つ当たりして甘えて親友ぶって、
そんな落ちぶれてても「ジャニーズ」ってレッテルに寄ってくる女、
俺がそこらへんの居酒屋の兄ちゃんやったら寄ってこぉへんような、
それぐらいにはそれなりの女、とっかえひっかえ。
2時間6800円の金も出されへんような男でも、とっかえひっかえ。
こういうん「虚無感」って言うんやって。
何しても満たされへん。欲しいもんが何かも分からん。
東京。水だけ入った冷蔵庫と、中身の入ってない俺。
もうアカンかなって。もうえぇかって。
帰る大阪。故郷。おかん。友達。近所のおばちゃん。近所の猫。
あぁ、息しやすいな。
やっぱここがえぇな。もう一生ここでえぇわ。
気付いたらまた、3人で大阪。可愛がってた亮、一人東京。
別にえぇやって、もう何にも焦らんでも、取り敢えず大阪おれるん、住みやすい。
その頃んなったら、痛いほどに感じてたヨコの優しさと淋しさ。
今はネタにしてる母親とのあれこれ。でも誰にも言わんと。
俺は相変わらずヒナに依存して、やっぱりちょっとヨコが苦手で。
久し振りの東京での仕事。3人。
与えられた、エキストラベッド入れてぎゅうぎゅうの狭いホテルの部屋。
朝の大阪駅の時点から、もう咳き込んでいたヨコ。
喘息の気あるから、ひゅーひゅーって、聞いてるだけでこっちも息苦しい感じ。
「大丈夫かヨコ?」ヒナがヨコの背中さすりながら。
「ん、大丈夫。咳、出る、ごほっ、ぐっ、だけ、やし」
喋るんもしんどそう。そんなんで仕事出来るんかい。
新幹線の中、微かな振動と、必死で堪えては時折我慢仕切れずに洩れるヨコの咳。
ヒナはずっとそんなヨコ、ただ心配そうに見てて。
俺と喋ろうや。大丈夫やって言うたやん。
そんな心配な顔されるん嫌いやでヨコ。
構ってくれんヒナに、自分に都合のいい理由付けて。
そんでもヨコ、仕事はちゃんとやった。カメラ回るん止まったら、咳。
でもカメラ回ってる時、一度も咳せんかった。
あの頃のがストイックやったな。ヨコは必死やったんやろな。
もいっかい、東京行かなって。俺の大阪への執着と反して。
ホテルに入って、朝より酷くなった咳。
明日はスタジオで歌の撮り。久し振りにメドレー歌わしてもらうん。
ちょっと楽しみ。歌うんは、やっぱいつでも楽しい嬉しい。
「俺、ごほっ、、ちょ、出て、ごほっ、くる、か、先、寝とって」
ヒナと俺にそう言って、ダウンジャケット片手にどっか行ったヨコ。
あんな咳しとんのに、女んとこでもいくんか?って、どこ行くんやろって、そう思ったけど。
ヨコがおらんくて、ヒナ一人で、俺は何か嬉しくて。
昼間のロケがキツかったせいで、ベッドに入って早々にやってくる眠気。
ヒナも同じ。ヨコが帰ってくる気配無いし、鍵は開けたまま10時待たずに夢の中。
ドアの向こうから聞こえる、何か言い争ってるような声に、
だんだん浮上してくる意識。
目をゆっくり開けて、サイドテーブルの時計、午前2時。
何やねんな。まだ寝たいわ。何騒いでんの。ヒナも起きてまうやん。
そう思って左に視線、空っぽのヒナのベッド。
「・・・ヒナ・・・?」
またドアの向こう。今度は判別出来たヒナの声。
冷たい空気が入ってくる布団えいってのけて、両腕さすりながらドア開けると、
ヨコの腕引っ張って怒ってるヒナ。
「・・・どしたん?」
他の部屋のお客さんにも迷惑やろ、何してん。
「すばる・・・ヨコがな、中々帰ってこんからな、ちょっとその辺、
コンビニでも探してこよかなってな、そんだらな・・・」
ひどく咳き込みながら、そのヒナの言葉を制そうとするヨコ。何やの。
「ちゃうねん。ヨコ、ずっとこのホテルおってん。1階上のな、喫煙所のソファでな、
寝ようって、ずっとそこにおってん」
「・・・は?・・・何でやねん・・・狭い言うてもベッドあるし部屋で寝ればええやん」
変わったことするやつやったけど、こんなん意味分からん。
「ごほっごほっ・・・ひっ、ごめ、咳、ごほっ、うるさ、すばる、寝られごほっ、へん」
ひゅーって、やっぱり風が通るみたいな音喉から出しながら。
「あんたがな、明日歌撮りあんのにな、自分がおったらうるさくて寝られへんで、
万全の体調で歌われへんかったらアカンから、せやからちゃうとこで寝よう思ってんて」
でも金無いし、知り合いおらんし、結局このホテル。
常に煙いような、薄汚れた喫煙所の硬いソファ、暖房のきいてない、冷たい空気の中で。
「・・・アホ・・・ちゃうか・・・」
何で。
何で。
何で。
何で。
何でって、俺が、何で。
俺のせい。
俺のせい。
俺がおらんくて、ヒナだけやったら、うるさぁてごめんなって言いながら、
でも部屋で寝たやろ?
俺のせいやんな。
俺がいらん気ぃ使わせたんやんな。
何で。
何で。
いつか言うてた。
「我慢すんの慣れてんねん」ってあんな淋しく笑ったお前、
その淋しさを、確かに知っとったはずやのに。
ごめん。
ごめん。
ごめん。
ごめん。
ごめん。
自分が一番可哀相って、やから俺は俺で手ぇいっぱいって、
いっつも、いっつも、そんなでも、ヒナとヨコ、
何回も何回も、俺の歌が好きやって、お前の歌あったら大丈夫やって、
いっつも、いっつも、いっつも、すばるはすばるのしたいようにしたらえぇって、
俺のエゴ、当たり前みたいに受け止めて受け入れて。
ごめん。
ごめん。
ごめん。
一人で、咳出る冷えた体、薄暗い喫煙所、抱えて眠るヨコ、
想像して、涙が出た。
大人になりたいと、はよ大人になって、息苦しい人生送ってる子供救いたいって、
何様やねん。
俺は。
俺は。
笑えるくらい、子供。子供やんか。
「・・・えぇよ・・・ごめん・・・ごめんな・・・咳なんかなんぼしたってかまへん・・・
寒かったやろ・・・ごめん・・・ごめん・・・ごめん・・・・」
気付いたら、ヒナも泣いとって、ヨコ一人、咳き込みながら、俺の方こそごめんなって。
あぁ。
俺がなりたい大人、お前かも知らん。
それから暫くして。
灰色の寒気垂れ込める1月の東京。
ヨコと初めて二人でメシ食いに行って。
980円の豚のしょうが焼き定食、付け合せのきゅうりの漬もん、
こっそり俺の皿に入れるヨコに何してんねんって笑いながら。
俺、お前のこと好きやでって。
尊敬してるわって。
何言うてんねん!って照れるヨコに、ヒナとはまた違う居心地の良さ感じ始めてて。
グループんなってデビューも出来て、順風満帆とはいかなんだし、
今やってどうか分からんし、そんでも、歌うんが、あぁやっぱ俺歌うんが好きやって、
これが俺の人生の核やなって、歌える場所を与えてもらえる喜びも、
その歌をきいてくれる人たちがいる喜びも、一生懸命噛み締めながら。
ヨコとはしょっちゅう遊ぶようんなってて、相変わらず俺に微妙に気ぃ使うけど、
でも昔とは明らかにちゃう空気のそれで。
二人でメシ食い行ったら、ヨコより先に、俺がヨコのきゅうり、食ってやって。
優しいヨコ。
面倒見がいいヨコ。
ヤスの優しさに慣れてしもうて、でもそんなヤスの優しさ、見ててしんどい言うヨコ。
なぁ、どんだけヤスの優しさ見てんの?
どんだけヤスの優しさ汲み取って拾い上げてんの?
しんどくなるほど、ヤスの優しさ、認めてんねんやろ?
そんなお前の優しいは、じゃぁ何なんやろな。
今でも。
あの時の咳き込むお前の残像に、
自分の首を絞めてやりたいくらい罪悪感を感じることがあんねん。
自分のことしか考えられへんかった、
人の淋しさや痛み、蔑ろにすんのなんか平気やった、子供やった俺。
今も、まだ、大人やとは思えへんけど。
でも。
でもな。
ヨコの優しい、ちゃんと分かんねやんか。
優しいをもらってるって、ちゃんと、分かってんねやんか。
ありがとなって。
ヨコも、ヨコの周りのもんにも、ちゃんと目ぇ向けて。
ありがとなって、ちゃんといっつも思ってるから。
なりたい大人はお前かも知らんって思ったけど、ちゃうわ。
俺、お前より大人んなってみせるわ。
いつか、もっと、ちゃんと全部、まだ拾いきれてないお前の優しい、全部拾って、
大人の俺が、心からありがとうって。
すばる歌ってたらそれでえぇねんけどなって、お前は笑ったけど。
end.
20081128.