拍手ログ。
fiction=1:想像によって作り上げられた事柄。虚構。
2:作者の想像力によって作り出される物語。小説。作り話。
「何やねんその顔。気色わるっ」
先輩からの誘いに全部ハイハイってめっちゃ嬉しいですって絶対行きますって。
そんなんして笑うてた俺の引きつったみたいな笑顔にヨコが。
村上信五16歳。特技は愛想笑いです。
「何がよ。人の顔に気色悪いとか言わんとって」
おどけて返す俺に、でもそれを許さんヨコ。
「嘘笑いしてんのみえみえやん。アホちゃうか」
人を蔑むみたいな見下すみたいな顔が似合うヨコ。
金髪が浮かん特異な顔立ちのヨコに歌上手くて顔可愛いすばる。
反して俺。
普通。
笑えるくらい普通やの俺。
やから笑うしかないやんか。
それしか出来へんねんから、笑うしかないやんか。
調子乗ってたよ、事務所入るまで入ってすぐは。
俺、ジャニーズ入れたやんって。イケてんねやって。
同級生の女子からチョコとかめっちゃ貰うて、男子から指さされて。
そんなもん調子乗るよ。中学生やもん。
でも。
すぐに思い知らされた現実。
並。
普通。
俺なんか、事務所ん中入ったら普通の中の普通。
何調子ん乗ってたんやろって。
俺程度なんか掃いて捨てるほどおるのにって。
キレイな顔したやつばっかに囲まれた普通のやつの気持ち、分かるか?
そんでも子供やから。
ニコニコ笑っとったらそれで可愛い可愛いなんねん。
八重歯出してニコニコしとって先輩のご機嫌取って。
同期のやつらより先輩にご飯連れて行ってもらえんの多くて。
「ヒナ」ってあだ名も付けてもうて、俺ちょっと特別やんって、
他のやつらより可愛がられとんが、何かステイタスみたいに思うて。
媚売って媚売って。
何や俺の先祖は有名な媚売り問屋か言うくらい媚売りまくって。
最初は良かってんな、それでも。
何言われても「ハイ!」って、そんな俺、気付いたら『便利な後輩』になっとって。
バラエティーのきついロケ、風邪気味でしんどい俺、終わったらはよ家帰って寝たいのに、
先輩に声かけられてん、「メシ行ってカラオケ行くぞ」って。
しんどい体、無理矢理無視してまた愛想笑い、「嬉しいっすわー!」
愛想笑い貼り付けたまま荷物まとめる俺さえぎるようにして、先輩に声かけるヨコ。
「すんません、さっき急に電話入って、こいつと俺、今から事務所行かなアカンのですよ」
やから今日はすんませんって、俺ら何かやらかしたんですかねーって、
じゃぁしゃぁねーなって先輩、二人で見送って。
「事務所、行かなアカンの?」
ホンマは答え、分かってたけど、ヨコの視線が怖過ぎて、目ぇ合わせられんくて。
「お前、仕事くれるん誰や思てん。
たかだか2つや3つ上なだけの先輩が、俺らに仕事くれるん思とんか?
ちゃうやろ?体休めるんも俺らの仕事ちゃうんか?
しんどい時にしんどいって言わしてくれんようなやつと、付き合う意味あるんか?」
正論。
反論の余地なんかこれっぽっちもない正論。
悔しいわ。何やのお前。お前に何が分かんの?
先輩に生意気やぁ言われても、自分のスタイル崩さんお前に、
俺がどんだけ打ちのめされたか知っとんか?
何でって、何でやって、何で違うねんって、何言われても表情変えんお前に、
俺がどんだけ劣等感感じたか知っとんか?
何でそんなん言われなアカンねん。
俺やってお前みたいに綺麗な顔しとったら、
すばるみたいに歌上手かったら、笑うしか出来へん今の自分なんか認めへんよ。
でも無いねんもん。
俺が誰かに誇れるようなもん、誰かに勝ってるようなもん、
何一つ思い浮かべへんねんもん。
何も言い返せんと唇噛み締めるだけの俺に、ふって、柔らかいみたいな空気になったヨコ。
「・・・まぁ、お前あれやんな、人が良過ぎんねんな。
やから誰からも好かれるんやろうけど。羨ましいわ。
俺なんか先輩には嫌われとるし後輩には怖がられるし、人付き合い、下手やねん」
困ったみたいに笑うヨコに、驚きとおんなじくらい泣きそうになって。
俺がお前に勝たれへんの、ホンマは顔なんかやないねんな。
そうやって俺にそんなこと言うてくれたんも、最初の正論も、
結局。
結局お前の方が大人やねんな。
うん。えぇわ。自分の本音、ちゃんと認めなな。
俺、お前みたいになりたかってん。
ヨコの真似ばっかしとってんな。
真似したかってん。
ストゥーシーのTシャツ、ナイキのスニーカー、ソニーのMDウォークマン、
ヨコとおんなじもん持っとったら、ヨコみたいになれるんちゃうかって、
今やから言えるけどな、これめっちゃ気持ち悪い話やねんけどな、
ホンマ自分でも引くくらい、ホンマ気持ち悪いねんけどな。
ヨコが付き合っとった女とそっくりな女とな、付き合ったことあんねやんか。
すばるに、「ヨコの彼女か思うた」って、スキャンダルや思たわって茶化されるほど、
ヨコの彼女とそっくりなん彼女にして。
「真似」はどこまでいっても「真似」でしかないんにな。
分かりやすく俺に懐いて依存してくれたすばるに、俺の方も拠り所求めていって。
どっかで打算もあってんけどな。
ヨコとすばるが仲良うなったら、俺、いらんなってまうって。
俺を介して言いたいこと言うてた二人に、いい気になってたん確かで。
俺がおらなんだらまともに話されへんやろ?
気まずいねんやろ?似てるもんな二人。
やから俺に頼ってえぇで。俺必要やろ?
必死や。
規格概念なんか無視すんの当たり前、想定外なんか当たり前の二人。
枠から出られへん俺が、その二人を戻すん出来て。
その頃は、そうやってヨコとすばるに頼られとるって事実が、
俺のアイデンティティーやってんな。
いつからやろな。
真似したいとは思わんなって、二人の距離が縮まったことにも焦らんなって。
声に出さんヨコの淋しさ、気付いてやれるようんなって気付かんフリもしてやれるようんなって。
舞台で骨折した時も、風邪で高熱出した時も、
『本当に大丈夫じゃない』時ほど、『大丈夫』に見せんのが上手いヨコ。
でも俺は分かんねん。
自慢や。
ヨコの『大丈夫』のウソとホント、誰より見分けられる自信があんねん。
そこだけは自慢さして。
でも悲しいお知らせやねんけどな。
ヨコの『大丈夫』見分けられてもな、それがウソでも、どうすることも出来へんねやんか。
ただウソの『大丈夫』やって、心配するしか出来へんねやんか。
俺が余計なことしたら、あの子のペース乱してまうわって、
どっかそんな遠慮、俺なりの配慮。
でもそんなん構わず「ウソや」って入っていくんおってん。
すばる。
いつの間に仲良うなったんって、ちょっと淋しぃなった時もあったけど、
こういう時、ホンマありがたい。
ヨコの表情読み取るんは俺が一番やけど、
俺の表情読み取るんはすばるが一番やねんか。
やから俺の顔からヨコのウソ読み取って、それをそのままヨコにぶつける。
なぁ。ホンマいつからやろな。
こんなキレイな三角形。
俺の言うことには頷かんヨコも、すばるの言葉には素直に頷いて。
一回だけ、あったな。
勿体無いから誰にも言わへんけど。
泣けれんヨコの代わりに、俺が泣いてやってん。
不細工な顔すんなって、何でお前が泣いてんねんって、
でも、ありがとなって。
あぁ、そやねんな。
俺ずっと、多分最初っからずっと、そうやって。
ただお前に、「ありがとう」言われたかってんな。
俺が誰かに誇れるもん、誰かに勝ってるもん、それにしたいわ。
誰よりもあんたに感謝される人間でおりたい。
それ以上に、俺があんたに感謝してもうてんねんけどな。
「ヒナ、1本ちょうだい」
本番前の楽屋、椅子に座って煙草ふかす俺に。
マルボロ、これも考えたらヨコの真似から吸い始めたんやったな。
「あんた禁煙しとったんちゃうんかい」向かい側の椅子に腰掛けるヨコにボックス投げながら。
「しとんねんけど、今めっちゃ吸いたいてか、お前吸いながら言うなや!」
今日の番組。
関西の大物さんの、看板番組。ゲストの俺とヨコ。
緊張しぃのヨコ、貧乏ゆすりも止まらんし、落ち着き無い。
「ライター」
「ん」
「・・・クラブ綾って・・・お前はどこで遊んでんねん・・・」
ライターの印字見て呆れたように俺に返す。
「付き合いやん。おっちゃんなったら何でかクラブ行きたがんねん」
「やから誰と遊んでんねん・・・」
「お前も今度一緒行こや」
「行くか!何でジャニーズ、クラブ行ってお姉ちゃん触らなアカンねん」
「いや、触らへんよ?あんた何想像しとんねん」
軽いやり取り。ヨコの緊張ほぐすための。
俺らを呼びに来たスタッフさんの声に、二人で煙草、灰皿押し潰して。
「さっ、ほんなら、ま、頑張りましょか」
「ん」無言でぶつける拳の中指の骨のちっちゃい痛みに、
仕事へのエンジンふかしながら。
これからも、まぁどっちかが相手を殺したいほど憎らしくならん限り、よろしく頼んますわ。
「今日のゲストは、関ジャニ∞から横山裕さんと村上信五さんでーす!」
「どーもー!いえーぃ!」
駆け下りていくセットの階段踏みしめる俺とヨコのこれからが、
いつまでも存在し続けますように----------。
end.
20081214.