横山君と彼女妄想(ログ)。





横山君と架空の彼女の妄想文です。
苦手な方は見ないで下さい。













三日前、東京に来た充が持って来たハガキ。
「兄ちゃん宛に来てたで」って。
丁寧に書かれた『横山侯隆様』の文字。
裏面見て、空気読まんかいって、何で持ってくんねんって、充に心ん中で舌打ち。
あれからもう、5年以上経つねんな・・・。








「さむー!さむー!凍ってまうー!」
御堂筋線中津駅から歩いて7分の由美のマンション。
コートのポケットから合鍵取り出して。
「うぅさぶー」
人気の無い1K、きちんと整頓されたキッチン抜けて部屋に入ってこたつのスイッチ「入」に。
そこら辺に持ってたコンビニの袋投げ出して、
全然あったかくないこたつ布団の中に両手両足突っ込んで、
エアコンくらい付けろやボケ、それかストーブ買えボケ、毎度の毒吐き。
俺がびゃーん売れたら買うたんねんけどな・・・自嘲。
全然安定せん仕事。レギュラーはラジオの1本だけ。
やっとこの夏に舞台やって、グループも組んだけど、それだけ。
転がったコンビニの袋からのぞくコーラのペットボトル。
あと1時間くらいで帰ってくる由美が手にしてるのは、なか卯の牛丼2人前。
そんな夜ご飯。ムードもへったくれもない。
ふーって、闇に落ち込んでいきそうなほど深い溜め息吐いて。
「よぉ我慢しとるわホンマ」
冷たいこたつの机に額あてて、誰ともなく呟く。


1年前のちょうどこんな寒い日に、風邪引いて高熱出した俺。
嫌や嫌や言う俺を無理矢理引っ張って、病院に連れ込んだヒナ。
それでも頑なに注射嫌や注射嫌や注射すんねやったら死んだ方がマシじゃボケ!
小学生よりもたち悪く駄々こねる俺に、「いい大人が注射の一つで何言うてんの!」って、
俺の腕押さえ付けて針差し込んだ看護師。由美。
俺のことも、もちろんヒナのことも知らんで、派手な金髪の男が喚いてるって、
そんな第一印象やったって、後日。
男って基本的に看護婦さん好きやん?あ、看護師な。面倒臭い。看護婦でえぇやん。
俺もその「基本的」に乗っかってんねやんか。
次の日、人生で初めて、自分から注射打ちに行ってん。
まだ熱下がらへん、あんたの打ち方悪かったんちゃうか、名前何て言うねん、
兵頭?って、上は名札見たら分かんねん、下や下、由美?普通っ!めっちゃ普通!
何やろな、熱に浮かされてたんかな。
普段やったら絶対出来へん、ナンパまがいの軽口。
困ったみたいに、でもちょっと嬉しそうに笑いながら名前言うてくれた由美に、
明日も来てえぇ?って。
夜勤明けで明日はおらんよって、でも会いたかったらここ来てやって渡されたメモ。
「・・・マクドナルドて・・・」
白衣着てない由美がポテトつまみながらきゃらきゃら笑って、
その笑い方が下品やなくてまた俺のツボで、
Lサイズのポテト3つとベーコンチーズバーガーとフィッシュバーガー、
ナゲット2個とコーラ3個とウーロン茶4個、4時間で手に入れた由美のアドレスと番号。
それから合鍵手に入れるまで3ヶ月、俺と由美の1年。




「たっだいまー」
回想に耽っていた俺の背中に、聞き慣れた由美の声。
案の定のなか卯の牛丼こたつに置いて、
さむいねーっていつの間にかあったまった布団の中にいそいそ入って。
「今日は急患が多くてねー」言いながら牛丼を袋から出す由美。
「お腹すいたやろ?熱いお茶入れよか?」
冷たいキッチンでやかんかける由美をすりガラス越しに見ながら、
込み上げてくる切なさに酷く泣きそうになった。
知ってんの。
4つ上の由美、医者との結婚話あったこと。
今やって、由美のお母さん、はよ俺と別れろ言うてること。
知ってんの。
俺やないやつと一緒におった方が、「未来」に夢見られること。
「腐ってもジャニーズ」って、知名度も人気も無い俺が言うても何の説得力も無いこと。
知ってんの。
それでも由美を放したくない俺のエゴが、由美を幸せから遠ざけてること。
そんな俺のエゴを、嬉しそうに受け入れる由美の優しさも。
今すぐ売れたい。
日本中で、俺の名前知らんやつおらんくらい、めっちゃ売れたい。
そんだら言えるやろ、言うてえぇやろ?
由美に、今まで一度も言うたことない、それ、言うてえぇやろ?
「入ったよ〜、さ、食べよ食べよ!」
人が感傷に浸ってる目の前で牛丼の匂い漂わせて何してくれてんのこの女。
それでも湯呑みから上るお茶の香りと牛丼に勝てず、
感傷はひとまず置いといて、由美と一緒にいただきます。
牛丼食べ終わったら、そういや高田のおじいちゃんに貰うてんやんか〜って、
甘そうなみかん、カバンから数個取り出してこたつの上。
「うわ、こたつにみかん、って、めっちゃ冬!って感じやな」
「ねー!いいやんいいやん、侯隆、みかん好きやろ?」
「おいしいのは好き」
「なんよそれー」
きゃっきゃ笑うてみかんの皮むいて、そのまま食べる由美と、
白い筋、全部キレイに取りたい俺。
「ちょ、白い筋に栄養あるんよ!何でのけるん!そのまま食べたらえぇやん!」
「白いとこ食うたら何か喉に引っかかる気ぃすんねん!えぇやんけ!好きなように食わせろや!」
「ほらー、ちょ、布団に白いのんいっぱい落としたやん!もう何でちゃんとせんの!」
「後から掃除したらえぇだけやんけ!みかんのくずぐらいでやいやい言うなや!」
「掃除するんは私やん!そんなん言うんやったら侯隆やりぃや!」
「お前のこたつやんけ!何で俺が掃除せなアカンねん!」
「入ってぬくぬくしとんはそっちやん!何やのそれ!トイレやっていっつも汚すし!」
「トイレは今関係無いんちゃうんか!男はそうなんねん!
エアコンもストーブも無いねんからこたつ入るしかないやんけ!どっちか買え!」
「侯隆が買うてよ!こんだけこの部屋来んねんからそれぐらい買うてよ!」
「そんな金あったら言われんでもとっくに買うてるわ!」
「じゃぁはよ買えるぐらい有名んなってよ!」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・ごめん・・・・」
「・・・・・謝んなや、余計惨めやんけ、俺」
「・・・・ごめん・・・・」
「・・・俺のが・・・・ごめん・・・エアコンもストーブも買うてやれんで・・・」
「・・・いらんよ・・・こたつ、あるし・・・侯隆、おるし・・・」
「ふっ・・・俺で、あったまる?」
「・・・エロい顔せんとって」
「・・・・ホンマに・・・来年は・・・来年んなったら、どっちか買うたるから・・・」
「・・・うん・・・・」
こたつの中で触れ合う俺の足と由美の足。
泣きそうなのを誤魔化すみたいに、両手で冷えた由美の頬を挟んでキスをした。


その『エアコンかストーブを買うたる来年』は、結局こんかったけど。








ハガキの裏面、ウェディングドレスの由美とタキシード姿の知らん男、
幸せそうな顔で、「わたしたち結婚しました」の印字。
結局子供やった俺と、やっぱり大人やった由美と、現実と理想。
俺が最後まで言えんかった言葉は、きっとこの男に言うてもうてんな。




街がネオンで彩られて、道行く人がみんなどこか浮き足立って、
マフラーからのぞく鼻は赤くて、息吹きかける指先は冷たくて、
そんな季節。
乾いた空気とあったかいショウウィンドウ。
エアコンもストーブも、いくつでも買えるようになった俺の部屋のこたつに、
みかん持って笑ってる由美はいない。
ちょうど目に入った看板。
俺の今日の夜ご飯、なか卯の牛丼。
熱いお茶を入れてくれる誰かが、早く由美を消してくれるように、
赤と緑の風船持った子供に笑い返しながら、星の見えない都会の空に、一人願った
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end.


20081226.