拍手ログ。

fiction=1:想像によって作り上げられた事柄。虚構。
2:作者の想像力によって作り出される物語。小説。作り話。
























大阪でレギュラー番組撮って、その帰りの新幹線。
東京のワンルームの自分の家に戻る新幹線。
グリーン車
俺ともう一人、前の方に見える、ポマードで頭ガチガチに固めたスーツ姿のおっちゃん。
二人だけ。
真っ暗な外。
窓に映る自分の疲れた顔をぼんやり眺めながら。


もうすぐクリスマスやって。
毎年この時期んなったら恒例、どんなクリスマスを過ごしたいですか?って質問、
この一週間で何回聞かれてんやろ。
もう自分が何言うたかも覚えてへん。
5年前は、おいつらとおったんやな。
冬やのに汗臭い男だらけの楽屋で、スタッフさんが用意してくれたケーキ、
それよりビールやビール!て騒いだりしながら、そんでも甘いクリーム指つけて。
楽しかったな。
こんなグリーン車なんか乗れんで、自由席で、
車両がホームに入ってきたら、マルとヤスに席取ってこい!って、
みんなでキャッキャ言うて。
7つしか席無いわ、お前は立っとけ!何でやねん!
うるさかったやろうな。迷惑やでホンマ。
みんなで肩寄せ合って頑張ろな言うてたあの頃。
東京ドームでコンサートなんか夢のまた夢やったあの頃。
最近、あの頃の夢ばっか見よる自分。
目が覚めて、自分の手のひら、こぼれおちたものの残像、掬い取ろうとして。


「んんっ」
おっちゃんの咳払いに、少しビクッとした体、シートに座りなおす。


『もう、俺、要らんのちゃう?』
掬い取れなかった残像に、毎回問いかける。
揃わない、揃わすことの出来ない足並みに、もう焦る気力もなくなって。






錦戸。どっくん。亮。亮ちゃん。
可愛いかったなぁ。
他の後輩はみんな俺恐がって遠巻きにしてたんに、錦戸、亮ちゃん。
「横山君横山君」って、俺に懐いてくれて。
可愛かったわホンマ。
「懐かれる」て、こんな気持ちえぇんやって、こんな嬉しいねやって、
初めて教えてくれたん、アイツやったなぁ。
もう、ぎゃーんて上いってもうて、俺なんか「錦戸亮」の足元にも及ばへん。
人気でも、知名度でも。
たまに電話かけよ思うて、ちょっと緊張してん自分がおんねんな。
NEWSの仕事してんちゃうん、ドラマの撮影してんちゃうん。
何に気ぃ使うてんの、どこ気ぃ使うてんの俺。
昔はあんなに遊ぼ遊ぼて、俺の家来て下さいよ来て下さいよて、
俺に構ってもらいたがっとたのになぁ。
赤西と山Pと錦戸で遊んどるってスゴイ画やな。
今度ハンディカムで撮らしてもうて、ネットで売っちゃろか。
めっちゃ金んなんやろな。
可愛いかったなぁ。
俺よりずっとちっちゃい背と手のひら、守ってやりたい思うてた。




コードなんか何一つ分からん俺。
すばるの求める音楽の世界に、全く必要無い。
すばるの創る世界に、俺は入られへん、入れてもらわれへん。
すばるの聴く音楽も、正直分からへん。
でも、すばるの歌は、やっぱり好きで。
ずっと、近くできいときたいわって、そう思うけど、いつか、それも出来んなるんかな。
まぁ、でもえぇか。
近くで、やなくても、すばるの歌きけるんやったら、それでえぇか。
俺なんか口出せんような世界に、音楽の世界に、すばるいきたいんやろうなぁ。
俺、邪魔してんやんな。ごめんな。




今日のスタジオ撮りでも眠たい顔しとった大倉。
ちゃんとカメラ意識せんかいって、ちょっとは口挟まんかいって、
何回か送った目線、全部シカトされてもうた。
気付いとらんだけかも知らんけど。
しゃーないなって、ドラマ撮影も、ソロコンもあってんもんなって、
甘やかすフリして、もう強くは言えない自分を正当化して。
ぼん倉。ぼーっとしててもカッコイイ、可愛えぇ。
それでえぇねんて。
羨ましいわ。こっちどんだけ一生懸命しゃべってる思うてんねん。
その挙句に、「うるさい」って、「しゃしゃり出んな」って、
「もっとたっちょんにしゃべらせてよ」って、俺が悪者かい。
もう僻むんも疲れた。
そうやって大倉にしゃべらそ思うてちょっと静かにしとったら、
今度はお偉いさんに言われんねん、「ちゃんと仕事しろ」って。
どないせえっちゅーねん。
ほやんて笑う大倉に、でも俺も癒されてるよ。可愛い。
いっぱい我慢さした思うしな、エイトん入ったばっかん頃なんか。
センターで歌いたいって、ピンスポ当てられたい言うてたお前、
それ以上んとこいってんで、もう。
やわかい空気まとって癒しオーラ、先輩にも好かれて可愛がられて。
えぇな。そのオーラ。俺も欲しかった。




何しても可愛い。可愛いねん。
俺多分、本気で怒ったことないやろ、内のこと。
ヘラって、大きな口あけて笑われたら、怒る気失せんねんもん。
もうえぇわって、なってまうねんもん。
内のオカンの運転する車に乗せてもうて向かうスタジオ。
内緒やけど、内のオカンに、ちょっとドキドキしとった俺。
やって美人やったし。
や、今も、多分。
全然会うてないから知らんけど。
ホンマ、二人で会うたりとか、全然してへんな。ないなったな。
あの時、「横山君助けて」って、縋りついて欲しいてどっか思うてた。
縋りつかれたところで、俺に何が出来てんっちゅー話やけど。
頼られたかった。可愛い内に。
何でもしてやりたかった。
もうそのポジション、俺のにはならへんけど。
ごめんな。何もしてやれんで。
はよ帰ってこいや。
そこに俺はおらんかも知らんけど。




「裕さん、ここ行ったことあります?」って、
「ここのパスタ食べたことあります?」って、
十代の頃の俺の東京慣れ、カッコイイ思うてくれて、
雑誌見てはことあるごとに俺に質問してきてたマル。
「その店やったらタッキーと行ったことあるわ」
「そこやったら相葉と食い行ったわ」
虎の威を借るなんとやら。
東京怖がるお前が可愛かった。
機嫌悪い時の俺にも、唯一じゃれついてくれたお前。
俺、お前を傷付けるようなん、いっぱい言うた。
後悔してんねん、ホンマ。
自分の苛立ち、上手く消化出来んでお前やヤスに当たって。
家に帰って反省すんのに、また次の日同じこと繰り返して。
イライラ。自分勝手な先輩や。
ただ同じグループってだけで、とばっちりやのお前。
なのに笑うてくれてんな。
当たられるん分かっとって、そばにきてくれてんな。よう出来た子やで。
ありがとな。




どんだけ自己犠牲払うねんって、何でそんな優しいんって、
その優しさの恩恵に与っときながら、その優しさにイラついたことあってん。
ヤスの優しいのん、当たり前になってもうて、
優しいを優しいとも思わんなって、他の世界にいってハッって思い知って。
キレイ事やんって思うお前のセリフも、でも本心やねんもんな。
体ちっちゃいのに、器でかいお前。
その器で、すばるの情緒不安も、マルの焦燥も受け止めてやってんな。
自分の世界と人の世界、無理せず融合出来る力。
才能や。お前の才能。
日本語不自由でも、ちょいちょい何かを間違えても、
いっちゃん大事なん、一回も間違えへんお前。
間違いまくった俺の穴、もう埋めてくれんでえぇねんで。
どうにかするわ。その労力、他の子ぉらに回したって。




昔はあんなに泣き虫やったのにって、もう枕詞みたいんなって、昔話の。
歌もダンスもアカン二人って、でも喋れる二人って、バラエティサイズな二人って。
ヒナと俺、エイトのリーダーみたいに思われて。
あ、うんの呼吸って、こんなんかって、俺のやりたいこと、言いたいこと、
瞬時に汲み取ってくれて、俺も汲み取ってやれて。
感謝してるわ。めったに言わへんけど。
努力するのんめんどいて嫌いな俺の横で、努力して結果出して先行くお前。
もう全く分からへんお前の人脈も、これから先エイトの役に立つんやろな。
すばるも、マルも、たまに難しいやつら、扱うんも上手やし、
あぁ、お前がおるから、もう大丈夫やろなって。
もう全然泣かへんなったお前の努力と経験と意地、それでエイト守ってな。








手に入れたもんと同じ数だけ、失ったもんがあって。
その失ったもんに執着し続ける自分に、自嘲が洩れた。


子供欲しな。俺の子供。
俺の手を、ずっと欲しがってくれる子供。
何やそれ。淋しいの埋めるための道具やないのに。


「潮時なんかなぁ」ぽつり呟いて。


誰よりも『安定』求めとんの、俺。
仕事入らへんと、存在価値が無い世界。
学歴も資格も技能も何も無い。
芸能人やめても、何も出来へん。
てか「芸能人」て。
「芸」も「能」も無いのに「芸能人」て。
容姿やって今じゃもう普通。普通よりちょっといいくらい。
なんの潰しもきかん。
からしがみつくしかないんかな。
他のメンバーの人気や力におんぶ抱っこで、
「芸能人」に疑問持ちながら、それでも細々食い繋いでいって。


事務所に入ったばっかん頃は、でっかい夢持っとったのに。
現実と自分の力量が比例してへんこと、知ってまう、分かってまう、
もうそれぐらいには大人になってもうて。
過去のあったかさ、未だに引き摺る思い出すせこい人間。


手元の携帯、「まだ、俺、要る?」
メンバーに一斉送信したろかって、笑える。アホか。
編集内容消去しますか?にYES押して、深い溜め息。


えぇんちゃうか、もう。
たとえほんのわずかでも、一時的にでも、
あいつらの風除けになれたって、そん自負だけで。
ちょっとずつ、ちょっとずつ、手のひらからこぼれていったん、
ちょっとずつ、拾っていこか。




東京に「帰る」ことにいまだに覚える違和感と、
込み上げてくる胃液を飲み込みながら、
おっちゃんの寝息が聞こえるくらい静かな新幹線の中、ゆっくり目を閉じた---------


end.


20081215.