拍手ログ。


fiction=1:想像によって作り上げられた事柄。虚構。
2:作者の想像力によって作り出される物語。小説。作り話。

























「ほな、内、帰ろかー」
最近お気に入りらしいカーキのジャケットを羽織りながら、
まだもたもたと荷物をカバンに突っ込んでいる俺に横山君が声をかけてくれる。
「あっ、もっちょ、待って待って、あ、ハイ、大丈夫、行きましょ!」
テレビ局の廊下、見知ったスタッフさんたちに挨拶しながら玄関までを二人で歩く。
「車回してくるわ」
ポケットのキーを確かめながら小走りで駐車場に向かう横山君に頷きながら、
明日のスケジュールを頭に浮かべ少しうんざりする。
始発で東京。亮ちゃんも一緒やけど。
エイトのみんなはオフや言うてたな。ちょっと羨ましい。なんて。
仕事もらえるんはめっちゃありがたいのに、
今日は大阪明日は東京、今日はエイトで明日はNEWS、今どこやっけどっちやっけ、
たまに全部投げ出したくなったり。
プップー。
遠慮がちなクラクションに頭を振って思考を飛ばして、
正面玄関に着けてくれた横山君のデミオに乗り込む。
「どこも寄らんでえぇ?真っ直ぐお前ん家でえぇ?」
シートベルトを装着した俺を確認したあと、アクセルを踏み込みながら横山君。
「あ、はい」
「ん」
それだけ聞くと、いつもの通りミスチルさんのCD入れっぱなしのボタン押して。
ミスチルさんの曲が流れ始めたら、俺はいっつもシートを倒す。
「着いたら起こして下さいね」
このセリフもいつも通り。
「ん」
テレビ局から俺ん家までの30分間。
デミオミスチルさん。ブレーキ踏む時のくんくんって二回の振動。横山君の横顔。
目を閉じて過ごす30分間。
ホンマは、別に、俺、眠ないねんけどな。
眠いフリ、眠ったフリすんの。
そしたら横山君が安心するから。俺の寝顔に、安堵の息吐いてるから。
たった30分でも、眠っとけよ、って、疲れとるやろって、
それに素直に頷いて従って「疲れを取ろうとしてる内」に安心すんねんな。




ずっと関西ジュニアで一緒にやってきて、先輩で、関ジャニ8の仲間で。
なのに。
「内と亮、東京で山Pらとデビューやて」
正直、嬉しいより戸惑いやったよ。山Pたちやって一緒やろ。
今まで一緒にグループやってたとっから、自分だけ選ばれて。
なんなん?何?どうなってんの?
どこに腰据えたらえぇん?
でもそんな戸惑いも、次から次に動かされる仕事で形をなさんなって、
気付いたら、俺と亮ちゃん、2つのグループ掛け持ちやって。
東京でNEWSとしてメディアに出まくったあと、久し振りの大阪、久し振りの関ジャニ8
怖い。
怖い。
みんなの視線が怖い。
見えんみんなの心ん中が怖い。
亮ちゃん。俺と亮ちゃん。一緒。
怖がってるの一緒。
でも村上君やすばる君、大人な対応。
「おー!お前らー!稼いできたかー!何か奢れ!」
髪の毛わしゃわしゃされて、やめてくださいよー言いながらホッとして泣きそう。
良かった。
「いらん」って、「もう仲間やない」って、無いって、そんなん無いって、
でもどっか怖くて怖くて。
そんなエイトの中で、一人だけ。一人、横山君だけ。
「嫉妬」を隠さなかった。
言葉にも態度にも表わしてなかったのに、それでも痛いほど伝わってきた、
「嫉妬」
でもすぐに。すぐに。
「嫉妬」は「心配」に変わった。
レギュラー番組のロケ。野外。太陽。熱いわホンマ。
「内!錦戸!こっち!」
そうやって俺らを日陰に入れる横山君は常で。
ポカリ渡されながら、そこまでしんどくないねんけど思っても、
この人の「心配」の空気が大きいから、少しでも小っさくせなって、
「あー気持ちいいー」癒されてるを演じる俺ら。
いや、実際やっぱちょっとは疲れてるしありがたいねんけどな。
ちょっとでも空いた時間があれば、「休んどけ」ってそればっかり。
ご飯連れて行ってくれる言うたら焼肉ばっかり。
食え食えって、お前ら痩せすぎやって、肉食って体力つけろって、
自分のラジオのレギュラー、時間ギリギリまで俺らのために時間割いて、
「気ぃ付けてな」
新幹線の切符確かめる俺らに、何度も何度も「しんどかったら言うねんぞ」って。
うん。
大丈夫やで。
亮ちゃんおるし。一人やないし。
帰る場所はあるし。




横山君とご近所さんな俺。
大阪のテレビ収録の時、大抵横山君が車で俺を送ってくれる。
こうしてシートに横んなって、横山君の調子っぱずれのミスチルさん聴くんも何回目やろ。
半音ずれてる「CROSS ROAD」やキーの上がりきらない「Over」や、
でもそれが俺ん中で「ミスチルさんの曲」になってもうて、
こん前音楽番組でミスチルさん一緒んなった時に聴いたミスチルさんの曲が、
にせもんみたいに思えてもうて。こんなん言うたら怒られんでホンマ。
目をつぶって、車の窓ガラス越しのネオンや街灯顔に感じながら、
いつもの横山君の運転より丁寧な、安全な、守られてる俺な車の中。
あぁ。
ちょっと、やっぱ、きてるんかな。
俺を起こさないように自分の携帯をマナーモードにまでして、
ミスチルさんのボリューム絞って、寝息立ててるテイな俺の顔覗き込んでホッとして。
そんな空間。
無くて当たり前だった空間、今無いなったら俺アカンかも。
色んな雑言。
ファンのひとたちのあれこれ。抱えるんはしんどい。
でも無視も出来ひん。
助けてって、縋りつくのは簡単。でもしたらアカン。
やからこの空間。眠るフリ。疲れを取ってるフリ。
でもその「フリ」が、多分何より俺を救ってくれてんねんな。


「・・・ち、うち・・・」
遠慮しながら小さい声で、申し訳ないように、そんな声色で。
俺を小さく揺さぶりながら、「着いたで」って。
「・・・んんー・・・」
シートにもたれたまま、大きく伸びをして、今起きましたってフリ。
だてにドラマ出てません。
ちょっとの間ボーっとして見せて、目をこすって、呂律回らない感じに、
「あーりやとござます」
「ん」
やんわり笑う、優しい先輩。優しい横山君。
「ほい、これ。俺のん買うついでに買うたから」
そう言って渡されるなっちゃん(りんご味)。これもいつも通り。
いつだったか、俺がスタジオで言うてたから。
「俺、なっちゃんめっちゃ好きやもん!りんご味の!いっつも飲んでる!」
それ、聞いてたんやろな。
でもちゃうのに。ホンマはな、正直りんごジュースって好きちゃうねん。
だってな、その時そのスタジオにな、サントリーの人おってんか。
横山君がいっつも言うてたから。何の商品でも、取り敢えず否定すんなって。
何でもえぇから美味しいだの便利だの好きだの言うとけって。
ほしたらCM繋がるかも分からんやろって。
やから媚売ってん。わざとサントリーの人に聞こえるように、
わざわざ商品名出して、好きですってアピール。
結局CMには繋がらんかったけど、それから半年経って今のくだり。
「やった!ありがとー!」
まだ冷たくてあんまり汗もかいてない缶受け取って。
「俺の買うついで」って、嘘ばっかりやでホンマこの人。
そうやって自分のために買ったってコーヒーの缶のプルタブ、開けられとんの見たことない。
てか、横山君コーヒー好きちゃうやん。
俺ん家の近くの自販機で、わざわざ買うてんやろ。
一回なんか、なっちゃん(りんご味)が売り切れとって、
わざわざ遠回りしてサントリーの自販機探して、240円、俺のためのなっちゃん(りんご味)と、
それを負担に思わせないための飲まれることない缶コーヒーの分。
「明日東京やろ?まぁ、うん、あんまし無理すんなや」
デミオから降りてドアを閉める俺にそう声かけて。
「うん。横山君もパチンコやめときや。また負けたー!言うて当たられたらかなわんわ」
きゃっきゃ笑って言うてあげる。俺の笑った顔。可愛い顔。
この人大好きやから。
「アホか!取られたもんは取り返すんが男やぞ!」
「ギャンブルやってる人、みんなそう言うで」
軽いやり取り。何の意味も無いやり取り。でも必要やの。
「ちゃんと布団かぶって寝ぇよ!ほんだらなー」
テールランプで2回、俺に合図した後、自宅に帰っていく横山君。
もしかしたら自宅やないんかも知れんけど。
ホンマは用あるのに、俺を送ってくれてるだけかも知らんけど。
全部が全部「俺のため」過ぎて、もう何があの人のホンマなんか分からへん。
甘えてるんかな。
でも、横山君がそれを望んでる気ぃすんねんもん。
俺でも、亮ちゃんでも、他のメンバーでも。
甘えられるん好きやねんな。何やねんお前って顔しながら、頬っぺた緩んでる。
甘えるん好きな俺と、甘えられるん好きな横山君。需要と供給。


横山君のデミオが完全に見えなくなってから、家に入る。
「ただいまー」
リビング入って肩にかけたバッグソファに放り投げて、もらったなっちゃん(りんご味)、
冷蔵庫に入れよ思て踏み入れた台所。
「あ”−−−−−−−!おまっ、何飲んでんねんっ!!」
冷蔵庫の前でなっちゃん(りんご味)の缶、左手腰に当ててごきゅごきゅ飲んでる妹に。
「ぷはー。あ、お兄ちゃんお帰り」
「お帰りちゃうわ!それっ!冷蔵庫のんやろっ?!何勝手に飲んでんねんっ!」
妹の手からなっちゃん(りんご味)の缶をひったくるとツバ飛ばしながら詰め寄る。
「もー、何よぉ、えぇやんかっ!どうせ飲まへんくせに!めっちゃ溜まってるやん!
邪魔やの!やからあいが飲んであげてんのっ!」
そう言うと俺の手からなっちゃん(りんご味)奪って。
「邪魔ちゃうわ!兄ちゃんのやぞ!勝手に触らんでや!」
ぎゃいぎゃい取るなえぇやんのケンカを見かねてお母さん。
「博貴!あい!何してんのっ!」
「・・・それ1本だけやぞ・・・」
俺のが兄ちゃんや。我慢せな。うん。
なっちゃん(りんご味)持って二階の自分の部屋に戻る妹見送って、
今日もらったなっちゃん(りんご味)を冷蔵庫に入れる。
確かに、ちょっと邪魔やな。いっぱい並んでる。
でも。
冷蔵庫に溜まったなっちゃん(りんご味)の数は、横山君の優しさの数ってことで。




end.


20081125.