NO MORE ヒロシマ




ちちをかえせ  ははをかえせ


としよりをかえせ


こどもをかえせ




わたしをかえせ  わたしにつながる


にんげんをかえせ




にんげんの  にんげんのよのあるかぎり


くずれぬへいわを







8月6日、テニアンから発進したエノラ・ゲイ号、搭乗員12人、
たった、一箇の爆弾ー。


「与えられた任務を完全に遂行出来たことを私は喜んでいる」
テニアン帰着時の指揮官ティベッツ大佐の言葉。


テニアン基地で、12人の搭乗員が英雄扱いされ、
シャンパンやビールやウィスキーを浴びるように飲んでいた頃、
ただ一杯の水もなく、
どろどろと溶け落ちてゆく皮膚をしたたらせながら、
水を求めて死体で埋め尽くされた川に、
更に死体を増やすためだけに飛び込んだ人間が何万人いたんだろう。






慰霊碑の前で、太陽に熱されたコンクリートに頭をすりつけて祈る、
沢山のお年寄りを見てなお、
御座なりで杓子定規な挨拶をするそーりだいじんさん。
反吐が出るからやめてv






「また墓が増える、とは、その数だけ、体験から認識へと薄れていくことなのか」








ヒロシマの空


夜 野宿して
やっと避難先にたどりついたら
お父ちゃんだけしか いなかった
ーお母ちゃんと ユウちゃんが
死んだよぉ・・・・


やっとたどりついたヒロシマ
死人を焼く匂いにみちていた
それはサンマを焼く匂い


燃えさしの鉄橋を
よたよた渡るお父ちゃんとわたし
昨日よりも沢山の死骸
真夏の熱気にさらされ
体が ぼうちょうして
はみだす 内蔵
渦巻く腸
かすかな音をたてながら
どすぐろい きいろい汁が
鼻から 口から 耳から 
目から とけて流れる


あぁ
お母ちゃんの骨だ
あぁ ぎゅっとにぎりしめると
白い粉が 風に舞う
お母ちゃんの骨は 口に入れると
さみしい味がする
弟は お母ちゃんのすぐそばで
半分 骨になり
内蔵が燃えきれないで
ころり と ころがっていた
その内蔵に
フトンの綿がこびりついていた






ヒロシマというとき


ヒロシマ>というとき
<あぁ ヒロシマ>と やさしくこたえてくれるだろうか
ヒロシマ>といえば<パール・ハーバー
ヒロシマ>といえば<南京虐殺
ヒロシマ>といえば 女や子供を壕の中にとじこめ
ガソリンをかけて焼いたマニラの火刑
ヒロシマ>といえば 血と炎のこだまが返ってくるのだ


ヒロシマ>といえば
<あぁ ヒロシマ>とやさしく返ってこない
アジアの国々の死者たちや無告の民が
いっせいに犯されたものの怒りを噴き出すのだ
ヒロシマ>といえば
<あぁ ヒロシマ>とやさしくかえってくるためには
捨てた筈の武器を ほんとうに捨てねばならない
異国の基地を撤去せねばならない
その日までヒロシマ
残酷と不信のにがい都市だ
私たちは潜在する放射能に灼かれるパリアだ


ヒロシマ>といえば
<あぁ ヒロシマ>と
やさしいこたえがかえってくるためには
わたしたちは
わたしたちの汚れた手を
きよめねばならない






かたまり
(ABCCの持ち去った被爆者の遺体の部分千数百が還ってきた)


おかあさん
わたしのそばにきてください


冷たく暗い倉庫から
「かえしゃあいいんだろ」というように
投げかえされたわたしを 迎えに来てください


おかあさん
あのときのように
わたしを抱き締めないでください
わたしの名を呼び続け
いつまでも涙を注がないでください


五月の風光る 日本の
ひろしまに還ってきても
くしけずる髪も やわらかな頬も
唇も 眸も わたしにはないんだから
パラフィンに包まれ ひとかたまりの
犬の餌のようになったわたしのことを
泣かないでください


メスで切り刻まれ 細胞のすみずみまで
戦争屋に利用しつくされたこのわたしで
おかあさん
悲しみにえぐりとられた胸の一部を
もはや怒りだけのかたまりのこのわたしで
ふさいでください






ぼくら人間だから


やけただれた僕のからだを見てください
やけただれた僕のからだを見てください
どうして こんなになってしまったの?
なにもわかりません
ぼくら、火の海に入ってしまったから
この世にさよならしました
でも、ぼくら人間だから聞かせてほしい
もう弟とマリ投げもできない
だれが、だれが、誰がそうしたのです


ファントムが日本の空を
どうして、いばって飛ぶの?
ジェット機が落ち、ぼくら死にそうなのに
なぜ、元気なアメリカ兵を助けにいった


黒こげになっても立っている
あの木の梢で、ぼくら待っています
どうして、こんなことになってしまったの?
なにもわかりません
どうか分かるように教えてください




(「日本の原爆文学:13」全15巻/ほるぷ出版